とあるララフェルの冒険録 1-1 冒険の始まり
『……て……』
頭に響いた声にハッとして目を開いた。
そこには暗い…それでいて所々に宝石を散りばめたかのような星空が広がっている。
『…いて…感……て……』
声の主を捜して辺りをキョロキョロと見回す。
頭上だけではない、自分自身が星空の空間に包まれていることに気付く。
その中でひときわ明るく輝く光が見えた。
「誰なの?」
思わず問いかけるが、返事は…ない。
光は徐々に大きくなり…そして闇へと変化した。
その闇から人影が現れる。
漆黒のローブをまとった、赤い仮面の男。
体格で男と判断したが、もし女だったら…あとで土下座して謝るしかない、うん。
先ほどの声は女性のようだったから、どう考えてもこの男ではないだろう。
そこまで考えたところで反射的に身構える。
嫌な気配を感じる…どうやら友好的な存在ではないらしい。
『聞いて…感じて…考えて…』
再びあの声が響く。
今度ははっきりと聞き取れた。
力がみなぎる…。
気が付くと、白銀の鎧を身に纏い、右手に剣を、左手に盾を掲げていた。
--なんかかっこいいなー、これ。
能天気にそんなことを思いながら、男に対峙する。
男が不敵な笑みを浮かべ、攻撃を仕掛けてくる。
負けてなるものかと、こちらも力を解き放つ。
互いの力が衝突しようとしたその時…!
「……さん。」
ちょっと待って、今大事なとこなんだから。
「……なぁ、お前さん。」
あーもう、邪魔しないでってばっ!
ハッと。
先ほどまでいた空間とは違う、砂と岩におおわれた景色が目に飛び込んできた。
「うなされていたようだが、大丈夫か?」
混乱している私の顔を覗き込んだのは、中年の男性だった。
「ひどい汗だな。エーテルにでも酔ったか?」
「えーてる? 酔う??」
「都市周辺はエーテライトが多いからな、たまにお前さんみたいに酔う奴がいるんだ。
なーに、すぐに慣れるさ。」
何が何やらよく分からないが、どうやらあれは夢だった…ということらしい。
「それにしては、やけにリアルだったなぁ…。」
ぼそり、とつぶやいた。
商人だというそのおじさんによると、私達が乗っているチョコボキャリッジ…チョコボが牽引する荷車は、「ウルダハ」という国の都市へ向かっているらしい。
荒涼とした砂漠や岩山に囲まれているその国は、貴金属や織物といった商業が盛んなのだそうだ。
「嬢ちゃんは何しに行くんだい?」
問われて記憶を辿る…私がここに来たのは確か…。
「冒険者になって、自立するためです。」
これまでの経緯を思い出しながら、簡潔に答えた。
さかのぼること数日前、私はある山奥の集落にいた。
そこで生まれ育ったのかというとそうではなく、山道で倒れていたところを保護されたのだ。
ぶっちゃけるとそれ以前の記憶がほとんどない、いわゆる記憶喪失というやつだ。
おぼろげに覚えているのは、赤い大きな果実と…なんかやたらでかい芋虫。
自分で言ってて意味不明だと思うけど、それくらいしか分からなかったんだ。
本当の名前も憶えていない、今名乗っているのはお世話になった村長さんが付けてくれた名前だ。
ククル、それが私の今の名前。
村長さんによると、5年前の第七霊災以降、私のような記憶喪失者が時々現れるそうだ。
その人たちに会ってみたいと言うと、彼らは冒険者になるために各国へ旅立っていったらしい。
きっといつまでも貧しい村のお世話になるわけにはいかないとの判断なのだろう。
「ククルや、お前さんはずっとここにいてもいいんじゃよ? 孫ができたようで嬉しいんじゃ。」
村長さんがそう言ってくれた。
小柄なララフェル族は他種族から見ると子供にしか見えないらしい、たとえ成人していても。
それでもやはり記憶を取り戻したいという気持ちが強く、情報を集めつつ生計をたてられるように冒険者になる道を選んだ。
そうして村人達に見送られ、一番近い国ウルダハ行きのチョコボキャリッジに乗り込んだのだった。
遠目に見えていた都市の建造物も近づくにつれ、その巨大さと威圧感を増してきていた。
「大きい…。」
首が痛くなるほど見上げて、思わずつぶやいた。
「そういや、お前さんの名前をまだ聞いてなかったな。」
商人のおじさんが後ろから声をかけてきた。
「…まぁ、いいさ。お前さんと出会ったことが俺の自慢になるように、立派な冒険者になっておくれよ!」
そう言うと一足先に歩いていく。
おじさん……名前も聞かないでどうやって活躍を知る気なんデスカネ?
疑問に思いつつも、門へと一歩踏み出した。
ここからが冒険の始まりとなるのである。
--------------------
【一覧へ戻る】
記載されている会社名・製品名・システム名などは、各社の商標、または登録商標です。
Copyright (C) 2010 - 2014 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.